売上にするタイミングは、事業の内容、個々の取引の内容によって、とても多くのパターンがあり、非常に難しいテーマです。
とても複雑で難しいため、脱税や粉飾などが行われる可能性も高く、税務署の税務調査や、上場企業に対する監査法人の法定監査でも、最重要テーマとして扱われる部分になります。
今回は、最も基本的な実現主義の考え方について、実務の事例を踏まえてご説明したいと思います。
1.翌月に請求するから大丈夫という誤解
自動車整備・小売業のO社長は、当期は利益が出そうなので、何か良い方法が無いか考えていた。すると、建設業のお客さんとの雑談の中で、「うちは翌月に請求して売上を調整するんだよ」という話が出てきた。
これは良い考えだと思ったO社長は、期末月に納車した車の請求書を、翌月の日付で発行したところ、顧問税理士の月次巡回監査の際に、「この分も期末月の売上にしますよ」と修正された。
2.請求する月の売上になるわけではない
売上のプロセスには、①商品・サービスを相手に提供する、②代価を相手に請求する、③代金を回収するという段階があります。中小企業の社長には、③の代金回収の段階で始めて売上になったと考える人がまだ多いですが、会計・税金いずれの場面においても、①の段階で売上にします。これを「実現主義」といいます。
中小企業の社長も、③の段階で売上にするのではないという考え方に慣れてくると、次は②の段階で売上にするようになります。ここで、②の段階ですが、仕事の内容によって、①と②は一致するケースと①と②の間にタイムラグがあるケースとがあります。一致していれば特に意識することもありませんが、タイムラグがある場合には、問題が生じます。
O社長のケースでは、車を納車した日が①(期末月)、請求書の日付が②(翌月)になりますが、この場合、車の売上は期末月のものになります。
3.まずは毎月実現主義で把握
まずは、大前提として、売上は③の代金回収段階ではなく、出来れば①の段階、事務的に難しいようであれば②の段階で把握するようにしましょう。
仕事の内容によっては、①の段階で売上を把握するためには、かなりの手間がかかってしまう可能性があります。その場合には、②の段階で把握した上で、①との差額を調整するという方法(〆後売上の調整)を取ることができます。
また、小売業や卸売業であれば「販売管理システム」、建設業やシステム開発等の請負業であれば「現場台帳管理システム」等のシステムを導入すると、手間をかけずに実現主義による売上の把握が可能になります。
4.なぜ請求を遅らせれば大丈夫と思ったのか?
なぜ請求を遅らせれば大丈夫と思ったのかについては、以下の原因が考えられます。
- 納車日と請求日がいつも同日なので、普段から請求日ベースで売上を考えていた
- お客さんの建設業の社長が売上を違法に操作していた
- お客さんの建設業の社長が本当は、完成引渡しを翌月に回しているのを、請求を翌月に遅らせると勘違いしていた
- 税務調査で請求書は見るが、納車日までは見ないだろうと思っていた
ちなみに、税務調査では、請求書だけでなく、そのベースとなる納品書、契約書等を必ず確認し、売上の発生日を特定します。
5.売上のタイミング
売上発生のタイミングは、仕事の内容によって変わってきますので、非常に難しい問題になります。商品を売るという、一見単純そうな売上であっても、「発送時」・「到着時」・「検品時」・「受領確認時」などいろいろなタイミングが考えられます。
それぞれの仕事について、どの時点で売上とするかについては、非常に難しい問題ですので、税理士などの専門家に良く確認することをお勧めします。
6.売上を実現で把握するメリット
売上を毎月実現のタイミングで把握しておくことには、次のようなメリットがあります。
- 決算時の売上を予測しやすい
- 代金の回収状況を把握しやすい
- 代金回収における不正を発見しやすい
売上を毎月発生のタイミングで把握していないと、毎月の売上の集計と決算時の売上の差を、決算作業の中で調整しなければならないので、売上の予測が難しくなります。
代金の回収状況については、売上を実現のタイミングで把握すると、会計帳簿に、「売掛金」という売上代金の請求権を表す金額が残ります。この「売掛金」は、代金を回収するまで会計帳簿に残り続けますので、代金回収の遅れを漏れなく把握することができます。
また、回収が予定通りに進まない「売掛金」がすぐにわかるため、取引先に確認することで、支払いが遅れているだけなのか、会社の他の誰かに既に支払っているのか、確認することができ、不正を発見しやすくなります。
売上の入金時に売上を財務会計システムに入力している会社は、是非実現時に売上を入力するようにしましょう。
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