テレビドラマ「凪のお暇」から考える、空気を読むということ

空気を読む健康

 今年の夏、一番評価が高かったドラマだと思います。黒木華さん主演の「凪のお暇」。

私たちは、大人だけでなく子供たちも、周りの空気を読んでその場に合わせた行動や発言が求められる場面が多いです。それ自体、悪いことではないでしょう。しかし、周りに合わせる行動をとることで本来の自分とかけ離れていくとしたら?

 主人公・凪は、地味で控えめで回りに合わせる、真面目な28歳女子。でも、周りの顔色をうかがって、心にもない相槌(うん、わかる~!)を打つばかりの毎日に疲れています。彼女の唯一の拠り所は、内緒で付き合っている社内の営業トップの人気者・慎二と付き合っていること。早く結婚して、気疲れする毎日から卒業することが彼女の夢なのです。だから、恋人である慎二の前でも、機嫌を損ねないよう顔色をうかがってばかり。

 そんなある日、社内で慎二が自分のことを悪く言っている場面に遭遇します。凪はショックで過呼吸になり、倒れてしまいます。倒れながら、自分を助けてくれない恋人の姿が目に入ります。

 拠り所を失った凪は、会社を退職し、住んでいたマンションも引き払い、携帯も解約して連絡先をすべて消し、ボロアパートに引っ越します。「人生のお暇」をとって、一からやり直すことにしたのです。そして、お暇中に出会った人々との触れ合いの中で、どんどん成長していく、というお話でした。

 このドラマが評価されたということは、上手に世相を反映しているからでしょう。視聴者によっていろいろな感想があると思いますが、「空気を読む」という観点から私見を述べてみたいと思います。

・同調圧力

  「うん、わかる~。」という相槌。本心とは違っても、とりあえず周りに合わせて、丸く収めておこう。非常に日本人的です。もしここで「いや、私はこう思う」とでも自分の意見を言おうものなら、わがままだとか、協調性がないとか言われてしまうのを恐れるのでしょうか。

・成育過程

  凪は、母一人子一人の家庭で育ちました。苦労して育ててくれたのは感謝していますが、母親は罪悪感を植え付けて言うことを聞かそうとするタイプです。例えば、家のリフォーム代を凪が出せないと言うと、「いいよ、お母さん、あちこちに頭下げてかき集めて払って、一生懸命働いて少しずつ返すから。凪は気にせず好きなことにお金を使いなさい。」というセリフを、「あちこちに頭下げて」という点を強調して話すのです。あと、折に触れて「ちゃんとしてるの?」と確認する。世間の目を気にする。心の中では凪に依存しているのです。

 一方慎二は、家庭の外に愛人を囲っている父親、整形依存症の母親、行方不明の兄の4人家族です。親戚の前では仲良し家族を装っており、行方不明の兄は、海外の投資会社に赴任しているということに。実は自分のやりたいことを見つけた兄は、ユーチューバーとして活躍しているんですが、必死に兄の本当の姿を隠そうとします。自分の理想とする兄の姿ではないからでしょうか。親戚の前で必死に空気を読んで取り繕う姿が痛々しい。

・行きつけのスナックのママ

 ドラマでは、武田真治さんがゲイのママを好演しておりました。「スナック」という場所は未知の世界でしたが、職場や家庭では出せない本音を吐き出して、また明日から頑張ろうという気力を与えてくれる場所だったんですね。ただ話を聞くのではない。上手に話を聞きだして気分よく話させてあげる。とても難しいことです。受け身ではダメなんですね。慎二は、こういうお店はママをはじめ店の人たちの優しさで成り立っている、と言っていました。

ママは会話のコツを、相手に興味を持つことだと語ったのが印象的でした。どう返したら上手に会話のキャッチボールできるかな、なんて自分のことばっかり考えている人と話なんかしたくないでしょ?というわけです。お店に来た人が気分よく話したいことを話せて、共感してくれて、ちょっと背中を押してくれる。そんな素敵なスナックならば行ってみたいですね。

・隣人のイベントオーガナイザー

 凪が引っ越したボロアパートの隣人、ゴンです。クラブでイベントを行う仕事をしているので、日中は家にいることが多いのです。彼は友人たちに、「メンヘラ製造機」と呼ばれています。

目の前にいる人にやさしく親切で、その人のしてほしいことをしてあげて、言ってほしいことを言ってあげる。だからみんな彼のことが大好きになるし、一緒にいると幸せな気分になれる。ただし、だれに対しても同じやさしさ。悪気や悪意は全くなく、目の前にいない人のことは忘れてしまう。彼のことを大好きになった女子は、みんな精神を病んでしまいます。だから、メンヘラ製造機。(ちなみにメンヘラとは、メンタルヘルスに問題を抱えている状態を意味します。)

 凪も最初はゴンの虜になります。しかし、このままではせっかく会社も彼氏も捨ててきたのに自分がだめになってしまうと気付き、ゴンからの別離を選びます。皮肉なことに、凪が別れを決めたとたんに、ゴンの中に凪をいとしく思う気持ちが、、。時すでに遅しですが、彼にとっても本当の優しさを知るきっかけになりました。

・ウィッシュノート

  お暇を終えた凪は、ウィッシュノート、すなわち「自分の本当にやりたいこと」を考え、そこに書いたことを実現して生きていこうと決めました。結局、自分の思いにも相手の思いにも誠実にいることが、空気を読むことよりも場を温かくするのかもしれません。

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