中小企業経営者の間では、節税方法として中古車を買うというのは良くある話です。
特に、大きな利益が出て、大きな経費を作りたいときには、5年以上経過した中古車は一括で経費になるので、古い中古の外車を買いたいという相談が多いものです。
しかし、中小企業経営者の多くは、中古車を買った金額を経費にしていく手続きである減価償却について、大きな誤解をしてしまっているのです。
今回は中古車の減価償却について、整理してみたいと思います。
1.期末月に中古車を買ってしまった場合
当期は業績好調で利益が出そうなA社長。節税対策を友だちの中小企業経営者に相談したところ、「5年経った中古車を買うと一括で経費になる」とのこと。
早速、中古車屋さんで、5年落ちの中古車を200万円で購入することにしました。しかし、決算月の前月末近くだったので、納車は決算月になってしまいました。
A社長のケースでは、残念ながら当期で経費になるのは、200万円の12分の1だけになってしまいます。なぜでしょう。
2.減価償却は月割計算
5年以上経過した中古車は、耐用年数が2年となり、定率法の償却率は100%となりますので、「1年間」で1円を除き全額経費にできます。
ところが、期中に購入して使い始めた中古車の減価償却費は、月割りで計算しなければなりません(法人税法施行令59①)。このため、期末月に中古車を買った場合は、12分の1の金額だけしかその年の経費にはならないのです。
なお、翌期には残りの12分の11の金額が経費になります。このため、当期は利益が多いので期末月に中古車を買って節税しようと思ったら、大して節税にならず、翌期にこの中古車の減価償却費のせいで赤字になる、というような残念な結果を招く可能性があります。
3.30万円未満の中古車なら一括で経費にできる
決算期末近くになって、節税のために何か減価償却資産を購入するということであれば、30万円未満のものにしないと一括で経費にはできません(少額減価償却資産、租税特別措置法67の5)。
このため中古車についても、30万円未満のものにしておけば、期末日に納車になっても一括で経費にすることができます。
ただし、期中に取得したその他の少額減価償却資産と合計して300万円を超えてしまうと、超えた部分は経費にならないので注意が必要です。
なお、中古車を新規で購入しただけでなく、いま会社で持っている車を下取りや買取にだして、買い替えた場合には、いまの車の売却についての、利益や損失も影響してきます。
4.減価償却制度の名前がややこしい
A社長のような勘違いは多いのですが、その要因は、次のように似たような名前で、様々な制度があり、対象資産や償却方法について混同されやすいところにあるように思います。
- 定率法で耐用年数が2年以内の場合の「償却率100%」
- 即時償却が可能な場合もある「特別償却」
- 一括では経費にならない「一括償却資産」
- 一括で経費にできる「少額減価償却資産」
- 「少額減価償却資産」の中小企業特例
5.減価償却制度の概要
- 償却率100%でも期中に取得した場合は、月割計算するので、一括で経費にはならない
- 特別償却は、国として「このような設備投資をして欲しい」という政策目的で減価償却による経費化を優遇するものなので、使えるケースは限定され、複雑な手続が必要
- 一括償却資産は、事務負担軽減の目的で設けられたもので、10万円以上20万円未満の減価償却資産について、実際の耐用年数に関わらず月割計算はせずに毎年3分の1ずつ減価償却できるというもの(法人税法施行令133の2)
- 少額減価償却資産は、減価償却にする意味のないものや、無駄に事務が煩雑になってしまうことを目的で設けられた、大企業でも使える制度で、①使用可能期間が1年未満のもの、または②取得価額が10万円未満のものについては、一括で経費にできるもの(法人税法施行令133)
- 少額減価償却資産には、経営基盤の弱い中小企業を支援する政策目的で、中小企業だけ使える特例があり、こちらは30万円未満のものについて、年間300万円を上限に一括で経費にできるもの( 租税特別措置法67の5 )
どの制度を使うのが有利かの判断は難しいので、日頃から専門家と相談しながら、進めていくのが良いでしょう。
6.まとめ
会社で使うものを買って節税を考える場合には、期末日に近づけば近づくほど、使える制度は減り、節税効果も下がっていきます。そこで必要になるのは、その年の利益の予想をどれだけ早く正確に出来るかということです。
財務会計ソフトにできる限りこまめに入力し、税理士に出来るだけこまめにチェックしてもらい、月次決算の精度を上げておきましょう。そうすると、かなり早い時期にその年の利益がある程度正確に予想できるようになり、効果的な節税対策が取れます。
来期以降の事業計画に基づいて、必要な投資を先行して行って、それが節税になるというのが最高の形ですので、目指していきましょう。
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