資本金を見せ金で会社をつくることで生じる問題

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 株式会社の設立時の手続きが簡素化され、登記手続きの際の、資本金の払込の証明が通帳コピーで出来るようになったことは良いのですが、見せ金で会社を設立してしまうケースが増えています。

 見せ金で会社を設立してしまってから、決算書に残ってしまった現金や貸付金の処理に困ってしまう、中小企業経営者からの相談を受けることがよくあります。

 会計の基礎知識がないと、わかりにくい部分ではありますので、今回は事例を踏まえてご説明していきたいと思います。

1.無いはずの現金が決算書にある

 ネット商品販売会社のM社長は、顧問税理士から渡された決算書を見て驚きました。

 あるはずの無い現金が、300万円以上あることになっていたのです。なぜこんなことになったのか、会計事務所の担当者に問いただすと、帰ってきた答えは「社長が会社にお金をいれないからです」というもの。

 すっかり頭に血が上ったM社長は、紹介された公認会計士に、決算書を見てもらうことにしました。

 すると、公認会計士からも「会計事務所の担当者の方のおっしゃる通りで、社長が会社にお金を入れてないからです。より正確に言えば、資本金として会社に入れたお金を、社長が勝手に引き上げてしまったからです。」と言われました。

2.資本金は会社のもの

 会社を設立するときに資本金として決定した金額は、その金額に相当する財産を株主が会社に引き渡さないといけません。

 通常は、財産として現金を会社に渡すことになりますが、その場合、その現金は会社のものになります。

 いったん会社のものになった現金を、社長でもある株主が会社から引き出す方法は、①会社を清算する、②役員報酬を受け取る、③配当を受け取るという方法に限られます。

 これ以外の方法で、会社から現金を引き出すと、その金額は、会社から社長への貸付金として扱われることになります。

3.手許に資金が無いときは現物出資

 会社から社長への貸付金は、税金面では貸付金の利息を会社が社長から取らなければならず、資金調達の面では、金融機関から会社の財産に手をつける社長とみなされ、会社に貸したお金が社長個人に流用される恐れがあるので、貸したくないと思われるなど、悪影響がありますので、なるべく無い方が良いでしょう。

 手許に資本金に見合う現金が無い場合には、現物出資という方法があります。500万円以下であれば、検査役の検査などの費用のかかる手続きが必要ないため、手軽に利用できます。

 ただし、ベンチャーキャピタルからの出資を受けたり、IPOを目指すような場合には、現物出資する財産の評価について、問題にされる可能性がありますので、明確に評価できるような財産に限定して、現物出資を利用したほうが良いでしょう。

4.なぜ見せ金で大丈夫と思われているか?

 中小企業の設立時に、見せ金で大丈夫と考えている経営者が多い原因として考えられるのは、以下のようなものです。

  • 資本金としていれた現金は会社が自由に使えるという話を、社長が個人で自由に使えると勘違いしている
  • 会社設立登記の手続きの中で、発起人(株主)の個人名義の通帳に、資本金と同額の現金を預け入れて記帳し、そのコピーを登記の添付書類として提出するため、会社に入れた感覚が無い
  • 会社と個人のお金の区別がついていない

 資本金と現金の問題は、貸借対照表の中の動きの問題なので、中小企業経営者の苦手な部分ですので、見せ金で会社を作ってしまい、架空現金問題で苦しむ社長は珍しくありません。

5.資本金とは

 現在の株式会社の資本金には、配当を制限する位の意味しかありませんので、中小企業にとってはあまり意味のある数字ではありません。また、税金やその他の法律の面で、資本金の金額によって、余計な税金や手続きが増える制度があるので、大きくする意味はほとんどありません。

 ただし、何となくイメージとして資本金が大きい方が信用されるような感覚があるのも確かですので、そうしたイメージが必要な場合には、現物出資を使ったり、会社設立前にお金を貯めておくなど準備をして、対応していきましょう。

6.まとめ

 中小企業にとってあまり意味のない資本金の金額ですが、以下を目安に考えるとよいでしょう。

  • 消費税の免税期間を利用する場合には1000万円未満にする
  • 個人の生活で当分の間、使わなくてもよい余裕資金の金額以内にする(金銭出資の場合)
  • 信用のイメージを気にしないのであれば、出来るだけ少ない金額にする

 資本金が少ないと、会社の資金繰りが厳しくなるのではと心配される方もいますが、社長が手許にお金を持っているのであれば、設立後にそのお金を会社に貸し付ければよいだけですので、あえて資本金として会社に入れる必要もありません。貸付であれば、会社の資金に余裕があるときに、柔軟に返済という形で、会社から資金を引き出せます。

 月次試算表や決算書の、現金・貸付金・仮払金などの科目には、今回のような会社と個人のお金のやり取りの痕跡が残りますので、良く確認して、不明点は顧問税理士などの専門家に質問して、解消しておきましょう。

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