嫌われる勇気

書評記事書評

 本書は、アドラー心理学を青年と哲人が対話する形式の、物語でまとめたものです。

 フロイトやユングのような「原因論」ベースの心理学が、一般的な心理学へのイメージですが、アドラー心理学は「目的論」をベースとしている点が大きな特徴です。

 目的論の考え方は、様々な自己啓発書などで、用いられているため、馴染みのある人にはあまり違和感はないと思いますが、ガチガチに「原因論」にとらわれている人にとっては、全く理解しがたいものかと思いますので、本書のような対話形式は、最適な形式ではないかと思います。

ライティングスキル

 私が本書で一番感銘を受けたのは、アドラー心理学という難解なテーマを対話形式に落とし込むことで、驚くほどわかりやすく言語化した古賀史健氏のライティングスキルです。

 仕事柄、文章を書く機会が比較的多い者としては、一流のプロのライターの驚異的なスキルに感動しました。ただし、一流の小説家の文章を読んだ時のような、別世界の技術という感じではなく、参考になる部分がとても多いと思いました。古賀氏の「20歳の自分に受けさせたい文章講義」も併せて読みましたが、書き続けることで、考え続けていきたいと思います。

目的論

 原因論にとらわれている人と話をしていると、なぜ同じところを回り続けているのだろうと不思議に思うことが多いです。そうした人に、目的論ベースの質問をすると、いったん理解したような感じになりますが、直ぐに原因論の世界に戻ってしまいます。それだけ、原因論の考え方が社会全体に根付いているということでしょう。

 本書は、対話形式を取ることで、一つのテーマを様々な角度から繰り返し検討していきます。がっちりと原因論にとらわれた人に、目的論の考え方を少しでも取り入れてもらうには、とても良いアプローチだと思います。

 また、本書のように、アドラー心理学そのものを扱ったものでなくても、大抵の自己啓発書は、目的論の考え方をベースにしているので、そうした書籍と併せて交互に読んでみるのも良いのではないかと思います。

課題の分離

 本書の重要テーマの一つが、「課題の分離」ですが、これも出来ない人が多いために、多くの不幸を生み出しているものかと思います。日本の場合には、特に親子関係で、この問題が顕著だと思います。

 課題の分離が出来ないために、子供を追い込み、自分を追い込み、不幸な結果になってしまうケースが後を絶ちません。

 また、職場内の人間関係や恋愛関係などでも、様々な問題を生んでしまっています。

 課題の分離という考え方を知るだけで、随分と変わる部分だと思いますので、本書がそのきっかけになってくれたらよいと思います。

人生とは連続する刹那である

 人生を山登りに例えたりといった形で、人生を、時間を線としてとらえる人が多いと思います。

 アドラー心理学では、今この一瞬の自分が完全な自分だと考え、線の途中、物語の途中の不完全な存在とは考えないという特徴があります。これに似た時間の捉え方は、様々な文学作品や社会学の研究にも見られます。

 私が一番始めにこうした考え方に触れたのは、村上春樹著「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」でした。一瞬を無限に細分化した点ととらえることで、永遠と考えるというような博士の話だったと思いますが、数十年ぶりに、また読みたくなりました。

まとめ

 本書は、大変なベストセラーで「幸せになる勇気」と二部作は、合計240万部にもなるそうです。

 原因論にとらわれるのは、経営者にとっては最悪の習慣だと思いますので、やらなければならないことをやっていないと感じている、うまくいかない原因を過去に求めてばかりいる、出来ない言い訳ばかりしている、そんな経営者の方には、是非一読をお勧めします。

http://book.diamond.ne.jp/kirawareruyuki/

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