貸し倒れリスクとうまく付き合っていく方法

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 企業経営者にとって、貸し倒れリスクとの付き合い方がますます重要になってきています。

 貸し倒れをやみくもに恐れてばかりでは、新規開拓など積極的な取り組みはできませんし、会社全体が後ろ向きになってしまいます。

 一方で、貸し倒れを気にせずに、イケイケでどんな取引先とでも仕事をしてしまうと、巨額の貸し倒れによって、危機的な状況に陥るということになりかねません。

 そこで、今回は企業経営者が、貸し倒れリスクとうまく付き合っていくための方法について、①貸し倒れリスクの基準を設ける、②貸し倒れリスクを減らす、③貸し倒れリスクをカバーするという3つの視点で、ご説明したいと思います。

1.貸し倒れリスクの基準を設ける

 貸し倒れリスクをコントロールするためには、まずは会社の現状を分析し、一定の基準を設定しましょう。

(1)いくらくらいまでなら貸し倒れになっても耐えられるか

 いくらくらいまでなら耐えられるかというのは、貸し倒れになって売り上げの代金が入らなくなった場合に、仕入代金の支払いや給与や家賃などの経費の支払い、借入金の返済などを、その後も問題なく続けられる限界の金額のことです。

 会社の仕事の内容や、個々の売上の内容によっても変わってきますし、会社の余裕資金の金額や、経営者が個人ですぐに会社に入れられる金額によっても変わってきます。

 個々の売上の内容とは、例えば、手数料収入のように売上に連動する支払いが無いような売上と、商品の売買のように、売上金額の70%の仕入れ支払いがある売上では、前者の売上の方が貸し倒れになっても耐えられる余地が大きいでしょう。

 いずれにしても、明確な金額を計算することは不可能ですので、ある程度感覚的でも良いと思いますが、少なめの金額で考えておいたほうが無難でしょう。

(2)耐えられる範囲内でどのくらいまでリスクを取るか

 次に、耐えられる範囲内でどのくらいリスクを取るかについては、会社の方針として、新規開拓を積極的に行っていくのであれば、多めにリスクを取ることが必要でしょうし、安定成長で地固めをしている段階であれば、あまりリスクを取らない方が良いでしょう。

 例えば、会社としては利益も継続して出ていて余裕資金もあるので、3000万円位までであれば、貸し倒れになっても耐えられるという会社があったとします。

 この会社がアグレッシブに新規開拓をしていこうという場合には、得意先に対して500万円までリスクを取ろう、つまり、売掛金が500万円までの取引はしようという基準、すなわち与信限度額を設けるかもしれません。

 一方で、この会社が安定成長を目指して新規開拓に消極的な場合は、100万円までしかリスクを取らないかもしれません。

 このように、与信限度額を設定をして、日々の営業や代金回収を行っていけば、貸し倒れによって致命的な損害を被る可能性は低く抑えることが出来ます。

2.貸し倒れリスクを減らす

 貸し倒れリスクを減らす方法は、いろいろとありますが、会社の置かれた状況によって、出来るもの、出来ないもの、簡単なもの、難しいものなど様々です。

 以下の方法を参考に、ご自分の会社で出来ることを考えてみましょう。

(1)売上代金の回収方法を変える

 前受金として事前に代金を回収してしまうことや、現金売買や不動産取引のように引渡しと代金回収を同時に行う方法で、あれば、そもそもリスクはありませんが、多くの企業間取引は、信用取引になりますので、貸し倒れリスクは避けられません。

 そこで、貸し倒れリスクを減らすには、売上代金の回収方法を変えるのが効果的です。

 売上から代金回収までの期間が短くなればなるほど、貸し倒れのリスクは減ります。

 また、貸し倒れのリスクを手数料を払って、別の会社に負担してもらう方法もあります。代表的なのは、カード決済の導入です。カード決済を利用すれば、手数料はかかりますが、カードを切ったところで貸し倒れのリスクはカード会社に移ります。

 少なくはなってきましたが、いまだに手形での決済をしているケースがあります。期間の長い手形は、貸し倒れリスクがとても高いので、どうしても手形決済にこだわる相手については、貸し倒れの可能性を常に頭にいれて、取引を増やしすぎないなど、注意が必要です。

(2)売上の相手を分散する

 売上代金の回収条件の変更は、相手の協力が無ければできないので、交渉次第になります。

 一方で、事業の内容にもよりますが、自力で出来る方法としては、売上の相手を分散するという方法もあります。

 1社への売上が100%の場合、その1社への売掛金が貸し倒れになった場合には、会社存亡の危機になりますが、売上先が100社に分散していて、1社に対する売り上げが最大でも数%程度であれば、1社が貸し倒れになっても、致命傷にはならないでしょう。

 売上の相手が分散すると、事業としての効率は下がるのが一般的ですが、最近では様々なITツールを格安で利用できるので、売上相手の分散による効率低下の影響は、以前ほど大きくはないでしょう。

(3)分割代金収納の導入

 貸し倒れリスクを下げるという意味では、一度に大きな金額の売上代金を回収するよりも、毎月少額の売上代金が分割されて入金される方が良いでしょう。

 現在の会社の事業の中で、代金回収方法を分割の形に変えていける部分は無いか、検討してみてください。また、サービス自体を定額料金制に変換する方法についても、可能性を模索してみるべきでしょう。定額料金制には、貸し倒れリスクを減らす以外にも、様々な効果が得られる可能性があります。

 カード決済や自動引き落としの代金収納で、毎月定額で入金してもらう方法に変えられると、貸し倒れのリスクを、大幅に下げることが出来ます。

3.貸し倒れリスクをカバーする

 ここまでは、貸し倒れリスクを前もってコントロールする方法でしたが、最後は、貸し倒れが起きてしまった場合に、そのダメージに耐えるための準備をする方法です。

 貸し倒れによって、売上代金が入金されないと、様々な支払いに支障をきたすことになります。この支払のための資金を調達できれば、会社の態勢を立て直すための時間を稼ぐことが出来ます。

 中小企業にとって、このような貸し倒れリスクを事後的にカバーする方法として最適なのは、経営セーフティ共済(倒産防止共済)になります。

 経営セーフティ共済は、節税と役員退職金財源確保のために利用されることが多いのですが、本来の制度の趣旨は、連鎖倒産防止のための緊急貸付制度にあります。

 貸し倒れが発生した時に、民間の金融機関が迅速に緊急融資をしてくれるとは限りませんので、貸し倒れリスクを抱えざるを得ない会社は、加入しておくべきでしょう。

4.まとめ

 企業経営者にとって、貸し倒れリスクとどのように付き合っていくかは、重要な経営判断になります。

 貸し倒れリスクのコントロール方法を知らずに、過剰に恐れて萎縮してしまっているケースや、逆に無謀なリスクを取ってしまい、危機的な状況に陥ってしまうケースが多く見られます。

 ご紹介した、①貸し倒れリスクの基準を設ける、②貸し倒れリスクを減らす、③貸し倒れリスクをカバーするという3つの方法を、しっかりと頭に入れていただいて、上手に貸し倒れリスクと付き合っていってください。

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