経営者のお客様と話をしていると、非上場株式の相続税評価額が、貸借対照表の純資産の金額だと考えているケースに、時々遭遇します。
それぞれの会社の状況によって、結果的に貸借対照表の純資産の金額に近い金額になることもありますが、純資産の金額と実際の評価額との間には、かなり差があることの方が多いでしょう。
特に、会社の規模が大きくなればなるほど、相続税評価額と貸借対照表の純資産の金額とは、かけはなれた金額になる可能性が高いのです。
貸借対照表の純資産額の金額を見て、相続税が大変だ、相続対策をしなければと慌てる前に、まずは、非上場株式の相続税評価額の計算方法の概要を把握しておきましょう。
非上場株式の相続税評価額の計算ステップ
非上場株式は、次の5つのステップで相続税評価額を計算することになります。
- 特定の評価会社に該当するかどうかを判定する
- 会社の業種に応じて、総資産価額、従業員数、及び取引金額により大会社、中会社又は小会社のいずれかに区分する
- 類似業種比準方式による評価額を計算する
- 純資産価額方式による評価額を計算する
- 大会社、中会社、小会社の区分に応じてきまるミックス割合で、類似業種比準方式による評価額と純資産価額方式による評価額をミックスする
1.特定の評価会社に該当するかを判定する
次のいずれかに該当する場合には、純資産価額方式による評価(ただし(6)については、清算分配見込額)になりますので、類似業種比準方式による評価は不要になります。
(1) 類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」のうち直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社(比準要素数1の会社)の株式
(2) 株式等の保有割合(総資産価額中に占める株式、出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合)が一定の割合以上の会社(株式等保有特定会社)の株式
(3) 土地等の保有割合(総資産価額中に占める土地などの価額の合計額の割合)が一定の割合以上の会社(土地保有特定会社)の株式
(4) 課税時期(相続の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において開業後の経過年数が3年未満の会社や、類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」の直前期末の比準要素がいずれもゼロである会社(開業後3年未満の会社等)の株式
(5) 開業前又は休業中の会社の株式
(6) 清算中の会社の株式
上記のいずれかに該当する会社のことを特定の評価会社といいますが、これに該当しない場合には、通常の会社として、、この後の2~5のステップを踏んで評価することになります。
2.大会社・中会社・小会社に区分
大会社、中会社、小会社の区分は、会社の業種に応じて、会社の貸借対照表の純資産価額と直近1年間の売上高、直近1年間の従業員数を使って区分します。
この会社区分によって、類似業種比準方式による評価額と純資産価額方式による評価額をそれぞれどれくらいの割合でミックスするかが決まってしまうので、非上場株式の相続税評価額の計算への影響が非常に大きい部分になります。
一般的には、類似業種比準方式による評価額の方が、純資産価額方式による評価額よりも低くなるケースが多いので、類似業種比準方式の割合の高い方が、相続税評価額は低くなる傾向があります。
3.類似業種比準価額方式による評価額を計算する
類似業種比準価額方式による評価額は、①配当金額、②利益金額、③純資産金額の3つについて、類似業種についての①~③の金額との割合を計算し、その割合を平均したうえで、国税庁が上場企業の株価などから計算し発表する業種別株価にかけて、最後に会社区分に応じて0.5~0.7の割合をさらにかけて計算します。
実際の計算は非常に複雑ですが、非上場の会社は配当をすることは通常ありませんので、会社の内部要因としては②利益金額と③純資産金額、外部要因としては上場企業の株価によって、株価が上下するということをおさえておけばよいでしょう。
4.純資産価額方式による評価額を計算する
純資産価額方式による評価額は、貸借対照表の純資産価額をベースに相続税評価額と差が生じる資産・負債について、調整を行って計算します。
このため、そのような差のある資産・負債がなければ、貸借対照表の純資産の金額とほぼ一致します。
相続税評価額と大きな差が生じるものの代表は、なんといっても土地でしょう。古い会社でバブル前に購入した土地が、貸借対照表に乗っている場合には、相続税評価額が帳簿価額を大幅に上回っていて、純資産価額方式による評価額が、貸借対照表の純資産を大幅に上回るケースがよくあります。
逆にバブル前後の地価が高い時期に購入した土地がある場合には、貸借対照表の純資産の金額が大きいので、相続税の心配をしていたら、実は株価はゼロだったというようなこともあり得ます。
相続税評価額と差が乗じるもので、もう一つ良くあるものは、節税目的で加入している役員生命保険の解約返戻金相当額です。全損や半損の生命保険の場合には、解約返戻金相当額の全部または一部が、貸借対照表にのっていないため、この分を加算しなければならず、その分、非上場株式の相続税評価額は高くなります。
その他にも、様々な調整が必要になりますが、通常影響が大きいのは、この土地と生命保険の解約返戻金になりますので、これだけ押さえておけば十分でしょう。
5.大会社、中会社、小会社の区分に応じてきまるミックス割合で、類似業種比準方式による評価額と純資産価額方式による評価額をミックスする
最後に、計算した類似業種比準方式による評価額と純資産価額方式による評価額を、会社区分に応じてきまる割合でミックスして、最終的な評価額を計算します。
ミックスの割合は、類似業種比準方式の割合が決まっていて、大会社の場合は100%、中会社の場合は、中会社の中で規模の小さい順に3つの区分を設けてそれぞれ60%・75%・90%、小会社の場合は50%になります。
つまり、中会社のなかで一番大きい区分の会社の場合は、次のように計算します。
類似業種比準方式の評価額×90%+純資産価額方式の評価額×10%
会社の規模が大きいほど、類似業種比準方式の評価額の割合が高くなりますので、会社の規模が大きくなるほど、貸借対照表の純資産の金額と株式の相続税評価額との差は大きくなる傾向があります。
なお、通常は類似業種比準方式の評価額の方が、純資産価額方式の評価額よりも低くなるのですが、極まれに、類似業種比準方式の評価額の方が高くなることがあります。
そのような場合には、いずれの会社区分であっても、純資産価額方式の評価額100%で評価することもできます。
まとめ
非上場株式の相続税評価額は、会社の規模と利益・純資産、上場企業の株価によって、上下することになります。
類似業種比準方式の評価額の方が、通常は純資産価額方式の評価額よりも低いため、会社の規模が大きい方が、評価面では有利になります。
また、利益や純資産は直近の決算の数値を使いますので、大きな利益が出た年度は、相続税評価額が普段よりも高くなります。
非上場株式の相続税評価額がどのようなメカニズムで動くのか、概要を把握していただき、株式の生前贈与などの事業承継対策を考えていきましょう。
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