配当しても節税にはならない

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 配当をすると、節税になるという都市伝説を耳にすることが、たまにあります。配当は、税金を払った後の利益の分配方法であって、税金計算上の経費には全く影響しないものですので、法人税や消費税の節税には一切なりません。

 なぜこのような話が出てくるのかについて、その背景を含めて考えてみたいと思います。

1.税金を払いたくないので配当しようという誤解

 当期の売上が好調で、数千万単位の利益が予想される不動産業のI社長は、節税の方法をあれこれと考えていました。

 ある時、不動産業者の懇親会で、節税のために配当しているという話を聞き、自分もやってみようということで、顧問税理士に相談しました。

 すると、顧問税理士からは、配当をしても一切節税にならないどころか、税金が大幅に増えると、ストップがかかりました。

2.配当は経費にならない

 配当で節税できるという誤解に、時々遭遇しますが、節税のために配当を利用するというのは、特殊なケースに限られます。

 配当は、会社の経費にはならないため、法人税の節税にはなりません。

 配当は、会社で利益が出て、その利益に対する税金を支払い、その上で残った利益の中から支払うものですので、そもそも利益を計算する際の経費に含まれるものではありません。

3.節税どころか個人の税金も増える

 中小企業は、株式の大半をオーナーが保有ししています。I社長も会社の全株式を保有していますので、配当をした場合の受取人はI社長になります。

 I社長は、配当が会社の経費になった上で、上場企業の株式のように、給与と合算しての確定申告は不要なので、個人の方でも節税になると考えたようです。

 しかし、中小企業の配当は、原則給与などと合算して確定申告が必要になるため、全く節税にはならず、個人の税金も増えることになります。

4.なぜ配当が経費になると思ったのか?

 I社長が、配当が経費になると勘違いしてしまった原因としては、以下が考えられます。

  • 単純に会社から支払うので、経費になると思った
  • 上場企業などからの配当は、確定申告していないので、同じ扱いだと思った
  • 懇親会で聞いた話の前提条件を確認しなかった

 配当について、確定申告をしなくてよい制度(確定申告不要制度)を使うことができるのは、上場株式等の配当等や、以下の算式で計算した金額以下の配当金に限られます。

10万円×配当計算期間の月数÷12

 ちょっと難しいですが、会社の節税で考えるような金額ではない、少額の配当金と考えておけば良いでしょう。

 懇親会での話は、相続税の対策で、株価を下げるために持株会社を作って、その持株会社に配当している、というものである可能性が高いと思います。前提条件を確認せず、「税金対策で配当」という切り取り方で誤解してしまったのでしょう。

5.会社にとって配当とは

 会社にとって、配当とは、税金を払った後の利益の蓄積を財源として、会社の資本金の出し手である株主に、利益を分配するものです。配当は、無制限にできるものではなく、「財源規制」というものがあり、原則として、税金支払い後の利益の蓄積の範囲内で支払うものになります。

 このため、配当の支払いは会社の経費にはなりません。

 余談ですが、配当は税金支払い後の利益から支払ものであるため、配当を受け取ったのが別の会社である場合には、この受取側の会社で、受け取った配当金に税金をかけてしまうと、二重の税金になってしまいます。このため、会社が受け取った配当金については、一部を税金をかける対象にはしないという制度が設けられています。

6.配当が有効なケース

 ここまでの説明でお気づきかと思いますが、中小企業にとって、節税のために配当を利用するというケースはまずありません。このため、ほとんどの中小企業は配当を行っていません

 中小企業で配当を行っているのは、従業員持株会を作って、株式の持ち合いをしているケースや、創業オーナーが引退し、給与ももらわない場合に、生活費として配当しているケースなど、特殊なケースに限られます。

 現在の税法の下では、中小企業経営者は、配当について考える必要は、ほとんどありません。

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