GAFA×BATH

書評記事書評

 本書は、米中のメガテックの競争戦略について米中企業を比較する形で、解説するものです。

 米中のメガテック各4社をそれぞれ、その事業領域ごとに1対1で比較することで、全体像を把握しやすいようになっています。また、各社を分析する上で、孫子の兵法を戦略分析に応用する「5ファクターメソッド」という方法を利用しています。

 GAFAについては、ほとんどの人が実際にそのプロダクトやサービスを利用していると思いますので、イメージしやすいと思いますが、BATHについては、限られた人しか実物に触れたことがないと思いますので、名前だけは知っていても、いまいちピンとこないかと思います。

 本書を通じて、BATHについても、特徴を大まかに把握することは出来たように思います。

構成

 米中のメガテックである、アメリカのGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)、と中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)を、それぞれの事業領域ごとに比較するために、第1章から第4章が割かれています。

 第1章ではECからスタートしたメガテックとして、アマゾンとアリババが比較されています。同様に第2章ではものづくりメインのメガテックとしてアップルとファーウェイ、第3章ではSNSスタートのメガテックとしてフェイスブックとテンセント、第4章では検索サービス発祥のメガテックとしてグーグルとバイドゥがそれぞれ比較されています。

 その上で、第5章で総合分析と米中の新冷戦との関係、終章で日本の企業経営者が学ぶべきことについて、簡単に言及されています。

5ファクターメソッド

 本書で提唱されている5ファクターメソッドは、国家規模のメガテックを比較分析するためのフレームワークとして、著者が考案したもので、孫子の兵法にある「道・天・地・将・法」の観点から、メガテックの特徴を分析するものです。

 「道」は戦略目標であり、ミッション、ビジョン、バリューなどを含みます。

 「天」は天の時、すなわちタイミングの問題であり、「地」は地の利、すなわち市場や業界構造などを含みます。

 そして、「将」はリーダーシップ、「法」はマネジメントを表します。

 つまり、SWOT分析や5フォースなどの様々なフレームワークや、組織論、ビジネスモデル、リーダーシップ論などの様々な企業分析手法を総合したものだといえます。

 非常に大きく、事業領域も広範囲にわたり、組織も複雑なメガテックの特徴を概略的にとらえるには有効な方法だと思います。

アマゾン×アリババ

 アマゾンについて知らない人は少なくなってきているかと思います。

 私も大量に本を購入しますが、リアル店舗での購入は、全体の1割もないと思います。また、身の回りのこまごまとしたものについても、アマゾンで購入することが年々多くなってきました。

 また、数年前からアマゾンプライムを利用していますが、年数千円の料金で、膨大な映像作品(世界中の映画、テレビドラマ、アニメなど)が見放題、膨大な音楽作品が聞き放題、ものを購入した場合の配送料は無料など、従来の常識では考えられないような内容のサービスに、当初は驚きましたが、もはや日常の者となっています。

 アマゾンは日本においても、もはや一企業という存在ではなく、コンビニや公共交通機関のようなインフラになりつつあります。より普及率の高い本拠地アメリカでは、より大きな存在でしょう。

 中国にとってのアリババは、アメリカにとってのアマゾン以上の存在のようです。日本にいるとアリババに触れることはありませんので、明確なイメージはありませんでしたが、最近読んだ「アフターデジタル」や本書を通じて、その存在の大きさに気づかされました。

 アマゾンとアリババの比較では、中小企業にとってのアマゾンとアリババの存在の位置づけの違いの部分で考えさせられるものがありました。「道」の部分はそれぞれ素晴らしいものであるものの、最終的なサービス・プロダクトの部分まで下りてきたときに、社会に及ぼす影響が異なってくる部分に、奥深さを感じました。

アップル×ファーウェイ

 アップルについては、iPhone、iPadのユーザーですので身近な存在ですが、ファーウェイについてはスマホメーカーのイメージが強かったです。最近では、米中新冷戦の象徴的な存在としてクローズアップされ、特に5Gインフラの主導権争いの部分がフォーカスされたことで、インフラ企業としての実態も認識するようになりました。

 アップルがブランド力の高いメーカーであるとともに、iOS上のエコシステムを構築しているプラットフォーマーでもあるのに対して、ファーウェイは純粋なメーカーということで、比較対象としては、やや微妙ではありますが、現状ではリアルとオンラインのメインの接点であるスマホのメーカーとして争っている両社をメーカーとしてのメガテックとして比較することには、一定の意味があるかもしれません。

 どちらも途方もない巨大企業ですが、アップルについては、メーカーとしての商品開発、ファーウェイについては、米中新冷戦に伴うサプライチェーンの再構築の可否がそれぞれ、企業の命運を左右するかもしれませんので、注目していきたいと思います。

フェイスブック×テンセント

 フェイスブックは、日本では利用者の属性が偏りつつあるようですが、世界的にはSNSとして群を抜いた普及率となっており、誰でも知っていますが、テンセントについては、あまりイメージがわきません。

 本書では、フェイスブックがSNSそのものを目的とした事業展開をしているのに対して、テンセントがその他の事業を展開するための情報収集手段としてSNSを運営しているという分析をしており、両社の特徴がとても分かりやすく説明されています。

 個人情報保護への意識の高い諸国に展開するフェイスブックと、個人情報に関して意識を高めることが制度的に制限されている中国中心に展開するテンセントという両社が、今後どのように世界に展開してい行くのかは、ある意味個人情報は誰のものかという考え方自体の覇権争いになるかもしれないという意味で、注目に値するかとおもいます。

グーグル×バイドゥ

 1年ほど前から、クロームとGmail、Driveその他のGoogleアプリを使い始めてから、すっかりその他のブラウザを使うことはなくなりました(Safariはスマホでたまに使います)。

 ブラウザだけで全てが完結することの意味の大きさを感じていますが、グーグルはまさにオンラインの世界のインフラそのものだといえます。バイドゥは触れたことが無いのでよくわかりませんが、グーグルのプロダクトを模倣することで、同じようなインフラを中国国内で築いているのだと思います。

 グーグルとバイドゥの際については、「道」の部分の徹底度合いと分析されています。

 グーグルは、「道」の部分を現場の隅々にまで浸透させる仕組みとしてOKRを活用していると、本書で触れられていますが、OKRについては本書でも引用されていますが「メジャー・ホワット・マターズ」を是非ご一読いただきたいと思います。

まとめ

 米中新冷戦の時代は避けられそうもない様相となっています。その中で、それぞれを代表するGAFAとBATHは、米中新冷戦の一翼をにない、それぞれの分野で覇権を争うことになるのでしょう。

 日本は基本的にはGAFAのインフラの下で活動していくことになるでしょう。

 本書を通じて、企業経営のためのインフラがどのように変わっていくのか、把握するための手がかりをつかんでいきましょう。

コメント