本書は、今後長寿化が進み、人生100年時代になる場合に、どのような変化が生じ、それにどのように対応していくかについて、従来の教育ステージ・仕事ステージ・引退ステージという人生のモデルからの変革の必要性と方向性について提案してます。
構成
- 序章 100年ライフ
- 第1章 長い生涯
- 第2章 過去の資金計画
- 第3章 雇用の未来
- 第4章 見えない「資産」
- 第5章 新しいシナリオ
- 第6章 新しいステージ
- 第7章 新しいお金の考え方
- 第8章 新しい時間の使い方
- 第9章 未来の人間関係
- 終章 変革への課題
序章では、100年ライフによって引き起こされる変化について、従来のモデルが崩壊すること、お金の問題が中心ではあるが、それだけではないことなどを提示した上で、本書の目的を打ち出しています。
この本は、未来が過去の延長線上にないと気づいている人たちに、未来の試練だけでなく可能性について知りたい人たちに、自分の現在と未来の職業人生を好ましいものにしたい人たちに、そして、長寿を災厄ではなく恩恵に出来る可能性を最大限高めたいと望む人たちに向けて書いた。本書は、そうした恩恵を現実化するために最初の一歩を踏み出すようあなたを誘う招待状だ。
LIFE SHIFT ライフシフト p38
2000年以降に生まれたような若い人たちにとっては、過去のモデルなど存在も知らず、本書で提案しているようなことは、自然と身に着けていくことでしょう。
本書は、それ以前に生まれ、3ステージ・モデルが頭から離れない親に育てられた、世代にとって、意味のあるものではないかと思います。
3ステージの人生
日本でいまだに根強い3ステージの人生、すなわち、教育ステージ・仕事ステージ・引退ステージという人生の3区分と、それを前提とした「理想の人生」「普通の人生」というものが、100年ライフの世界では、経済的に維持不可能であることを、本書では様々なデータを用いて説明しています。
年金の問題やIT技術の発展状況などから、感覚的にはすでに、このような認識は多くの人が持っていると思います。
それでも3ステージの人生を最適化しようという努力を依然として続けているのは、未来は不確実だという現実から目を逸らしたい、人間の本性でしょう。
経営者の視点では、3ステージの人生モデルの崩壊は所与のものとして、どう対応していくかを考えていく必要がありますが、本書の提案は参考になる部分があるかと思います。
見えない資産
本書では、お金に換算できない資産として、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」という3つを提案しています。100年ライフの中で、この3つのお金に換算できない資産と、お金に換算できる有形資産の増減をどのようにコントロールしていくかという視点で、幸せな人生を実現する方法を考えるフレームワークになります。
3つの見えない資産と有形資産には、トレードオフの関係もあるため、何かを増やすためには、何かを減らさなければならないという部分もあります。
本書では、様々なシナリオを紹介しながら、このトレードオフ関係をイメージできるように説明されています。
サラリーマン視点だと納得できる部分が多いと思いますが、経営者の視点だと、違和感を感じる部分も少なくありません。
しかし、経営者としては、両方の視点から考えることが必要ですので、本書は、頭を整理するのにある程度有用ではないかと思います。
新しいステージ
従来の3ステージから、3.5ステージ、4.0ステージ、5.0ステージへの変化を考える上で、新しい構成要素となるステージとして、「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」の3つを提唱しています。
この3つは、あくまでも、現状の環境で考えられるステージなので、今後、ITインフラの変化などによって、全くことなるステージも可能になるでしょう。
この3つの新しいステージを固定的にとらえるのではなく、従来の3ステージ以外にも、一人ひとりが自分に合ったステージを考えていくことが重要だというメッセージととらえると良いのではないでしょうか。
お金と時間
人生に必要なお金は、入金よりも出金が少なければ、お金に困ることはないというだけですので、出金の予想を保守的に行って、それをまかなえるだけの入金を確保する方法を考え、実践していけば良いと思います。
本書では、出金をコントロールする意義や、出金を楽観的に考えてしまうリスクについて言及しています。満足を得るために多額の出金が必要な人は、それに必要な入金を得るために、多くの時間を投入しなければならないかもしれません。一方、入金のために時間を投入したくなければ、出金を必要としない満足を得る方法を工夫すればよいでしょう。
経済学者が書いた本なので、このようなお金と時間の関係は、良く整理されていると思います。
また、余暇時間の使い方として、100年ライフに備えるために、時間を消費するレクリエーションから、時間を投資するリ・クリエーションへの発想の転換などは、一つの考え方の提示として良いと思います。個人的には、純粋なリ・クリエーションは味気ないので、リ・クリエーションとレクリエーションの両方の要素を含む余暇時間の使い方を見つけるべきだと思います。
まとめ
100年ライフを想定して、身の回りのことを色々と見直してみるのは、とても良いことかと思います。本書で提唱している内容は、どちらかというと大企業のサラリーマンにとって刺さるものかなと思います。
経営者として仕事をしていると、いまいちピンとこない部分も多いです。経営者の生活をしていると、本書で提案しているステージのように、明確な区分はなく、複数のステージが重なりながら、その割合が刻々と変化していくような感じになります。
ただ、企業経営を考える上で、100年ライフを想定してみることは、先読みの方法の一つとして、有益といえるのではないでしょうか。
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