在庫を減らすと税金が減るという誤解をしている経営者から相談を受けることがあります。
在庫と利益の関係は、会計の勉強をある程度していないと、若干理解しにくい部分もあるので、仕方ないと思います。
そこで、今回は在庫と利益の関係について、ご説明したいと思います。
1.決算前に在庫を減らそう
中古品買取業のK社長は、当期に大きな利益となる見込みなので、節税対策を考えていたところ、同業の経営者が「棚卸資産を減らせば利益が減る」と言っていたのを思い出しました。
そこで、毎月ミーティングしている顧問税理士に、決算前に棚卸資産をできる限り販売して減らそうと思うと話したところ、「ちょっと待った」と止められました。
2.在庫と利益に直接の関係はない
在庫の金額そのものと、会社の利益との間には、直接の関係はありません。利益に影響するのは、在庫の金額の中に含まれている「含み益」と「含み損」です。
「含み益」、「含み損」とは何かというと、在庫の金額とその在庫を売る金額との差額のことを言います。
例えば、80,000円で買い取った腕時計を在庫として持っているとします。
この腕時計の在庫金額は80,000円です。この腕時計が100,000円で売れるものであれば、20,000円が「含み益」になります。
一方、高く買いすぎてしまい50,000円でしか売れないものであれば、30,000円が「含み損」になります。偽物で売れないので壊すしかないのであれば、80,000円の「含み損」ということになります。
「含み益」や「含み損」は、在庫のままで会社が持っている限りは、利益に影響しません。利益に影響するのは、売ったり、捨てたりして、会社が在庫を手放したときになります。
3.在庫の仕分けが必要
K社長が節税するために必要なのは、「在庫の金額全体」を減らすことではなく、「含み損のある在庫の金額」を減らすことなのです。このため、在庫を「含み益」のあるものと、「含み損」のあるものに仕分けすることが必要になります。
顧問税理士の指導を受けて、まずK社長はExcelの在庫一覧表に販売予定価格の欄を設けて、いくらで売れるか入力し、「含み益」と「含み損」を計算しました。
そして、「含み損」のある在庫をソートして、決算日までに急いで販売したり、売れないものは廃棄したりしました。また、「含み益」のある在庫のうち、すぐに値段の下がらないものは、期末日を過ぎてから販売することにしました。
4.なぜ在庫を減らせば利益が減ると思ったのか?
ところで、K社長の同業の経営者は、なぜ「在庫を減らせば利益が減る」と言ったのでしょうか。
要因としては、その経営者の会社が、月次決算を行っておらず、決算時に計算した在庫の金額で利益が大きく動く経理態勢になっていることや、在庫金額を調整することで、粉飾や脱税を行っていること等が考えられます。
もしくは、それ以前の問題として、次のような在庫と利益の関係を勘違いしていた可能性もあります。
5.在庫と利益の関係
複式簿記をベースとした会計において、在庫と利益は次のような関係にあります。
売上ー(期首在庫+当期仕入ー期末在庫)=利益
この計算式で行くと、期末在庫の金額が減ると、その他の項目が変わらなければ、利益は減ります。このため、これだけ見ると「在庫が減ると利益が減る」と言えそうです。
しかし、在庫が減るためには、「売る」か「捨てる」必要があるので、「売る」場合には、売上が増えますので、利益が減るかどうかは、売った在庫の金額と販売金額との比較になります。
このように、在庫と利益の金額は、単純な増減関係にはないのです。
6.毎月在庫を計算するメリット
K社長は、個々の在庫の金額を一覧表にして、受払の管理を行っていたので、「含み益」のあるものと「含み損」のあるものを仕分けして、上手に節税することができました。また、翌期は「含み益」のある商品をスタートダッシュで販売して利益を確保したので、余裕を持って新年度を進めていくことができました。
このように、在庫を毎月計算できる態勢を作っておくと、毎月の利益が正確に計算できるだけでなく、「含み益」や「含み損」の金額も使って、早い時期に正確な利益予想ができるようになります。ライバルよりも一歩先を見て対策が取れるため、経営を優位に進めることができます。
在庫の受払は、Excelや販売・在庫管理システムを利用して行いますが、経理処理や税務処理にも影響しますので、顧問税理士と良く相談して態勢づくりを進めましょう。
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