利益が出てくると、一時的に手許のお金が増えてくるので、無駄遣いを始めてしまう経営者は結構多いです。無駄遣いの結果、資金繰りが苦しくなって借金を増やすという、無駄なことをしてしまいがちです。
一方で、真面目で借金嫌いな経営者の場合には、借入金の繰上返済をしたがることが多いのですが、この場合にも、残念ながら資金繰りを悪化させてしまい、経営者のストレスになってしまうケースもあります。
今回は、ちょっとわかりにくい利益とお金の関係について、繰上返済を事例にご説明したいと思います。
1.利益が出そうなので借入金を返済する
業績好調な自動車整備・販売会社のF社長は、当期の決算で3000万円前後の利益が見込まれるので、銀行からの借入金2000万円を繰上返済することにしました。
月次巡回監査でやってきた税理士事務所の担当者に、その話をしたところ、資金がショートしてしまうので、繰上返済はしないように、ストップをかけられました。
2.借入金と利益に関係はない
利益が出ると、借入金を繰り上げ返済したいという話が良く出ます。この考え自体は間違ってはいないのですが、危ないのは、経営者が「利益の金額=余裕資金」と勘違いしてしまっている場合です。なかには、借入金を返済すると利益が減るという勘違いをしてしまっているケースまであります。
借入金の借入や返済による、手許のお金の増減と、会社の利益との間には、全く関係はありません。ここまでは、比較的多くの経営者が理解しています。しかし、利益の金額分の余裕資金が増えていると考えてしまう経営者は少なくありません。
利益の金額と余裕資金の増加は、多くの場合は連動しますが、100%ではないため、注意が必要です。
3.安易な繰り上げ返済は危険
借入金の返済については、返済財源の範囲内で返済するという考え方を、基本として持っておくことが必要です。
利益の出ている会社であっても、返済財源を超える金額を繰り上げ返済してしまうと、途端に会社の資金繰りは苦しくなってしまいます。
4.利益と手許資金のズレ
会社の利益が増えると通常は、同額の手許資金も増えることになります。ただし、以下のような、利益分の手許資金が増えない要因もありますので、注意が必要です。
- 回収が遅れたり、出来ない売掛金が増えていると、その分の手許資金は増えない
- 不良在庫が増えていると、その分の手許資金は増えない
- 運転資金(売掛金+棚卸資産ー買掛金)が増えていると、その分の手許資金は増えない
- 借入金の返済をしていると、その元本返済分の手許資金は増えない
- 節税のために半額経費の保険料を払っていると、資産計上分の手許資金は増えない
また、上記のような要因がなかったとしても、利益に対して、25%~35%程度の法人税等の支払いや消費税等の支払が、決算期末の2か月後に必要になりますので、その分は別途資金を確保しておく必要があります。
このような、利益の金額以外に手許資金を動かす要因は、損益計算書だけでは分からず、貸借対照表を見ないとわかりません。そのため、貸借対照表が苦手な経営者は、勘違いしてしまいがちです。
5.借入金の返済財源
借入金の返済財源の目安を、簡単に計算する方法として、次の方法をお勧めします。
損益計算書の税引前当期純利益×0.6+減価償却費
上記の計算式は、法人税等の実効税率をかなり保守的に40%にしています。この計算で出てきた借入金の返済財源金額から、借入金元本の返済金額の年間合計をマイナスしてあげると、繰上返済してもよい金額の、大まかな目安になります。
ただし、前述のように、返済財源に影響を与える要因は様々ありますので、繰上返済を考える際には、顧問税理士等に相談して、慎重に判断されたほうが良いでしょう。
6.借入を減らすには税金支払いが必要
会社の借入金を減らしたいが、税金は払いたくないという経営者もいますが、借入金の返済財源の考え方を理解していただくと、税金を払わず借入金を減らすことは不可能だということがわかります。
借入金は、法人税等を支払った後の利益によって、会社に残った資金からしか返済できないのです。逆に、税金を払わないためには、借入金を増やし続けるしかないとも言えます。
目先の税金支払いを避けるために、過剰な節税や浪費を繰り返し、借金を増やし続けて、経営環境のちょっとした変化で破産する経営者は後を絶ちません。
税金を払って強い会社にして、十分な役員報酬を長期間確保し、生涯所得を最大化するという発想を持っていただきたいと思います。
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