事前確定届出給与を利用する方法

経営管理記事経営管理

 来年単発の大きな仕事が入って、大きな利益が出るかもしれない。ただ、まだ確定していないので、不透明ということがあります。

 こうした場合には、役員報酬を増やしておくか、そのままでいくか、悩ましいところです。定期同額給与というルールの影響で、役員報酬を途中で上げ下げするのは、難しいからです。

 また、法人税法上、事前確定届出給与又は業績連動給与のいずれかに該当しなければ、役員への賞与は損金に算入できません。このうち、業績連動給与については、事実上、上場会社でなければ利用できませんので、こうしたケースでは、事前確定届出給与を利用する方法が良いでしょう。

1.事前確定届出給与とは

 事前確定届出給与とは、会社の役員報酬について、「いつ」「いくらを」「だれに」役員報酬として支払うかを、事前に税務署に届け出て、その通りに支払いをした場合には、その役員報酬を会社の経費として認めましょうという制度です。

 会社の役員報酬には、定期同額給与という、毎月定額での支払い以外は経費として認めないという、現在の法人税の前提があります。

 これは、役員報酬を期の途中で上げ下げすることにより、会社の利益を恣意的に操作することを防止するためのものです。

 しかし、毎月定額での支払いがなじまない、非常勤の取締役・監査役への支払いを年1回払いにするような場合には、定期同額給与だけでは困ってしまいます。

 そこで、法人税法では事前確定届出給与という制度が、別途設けられているのです。

 この事前確定届出給与は、年1回払いの非常勤役員だけでなく、定期同額給与をもらっている役員に対して、賞与を支払う場合にも利用することができます。

2.事前確定届出給与の届出方法

(1)事前確定届出給与の届出期限

 事前確定届出給与を利用するためには、「事前確定届出給与 に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。

 この届出書は、株主総会等の決議をした日から1月後までに、提出しなければなりません。

 例えば、3月決算の会社の場合には、法人税の申告期限が決算日である3月31日の2か月後の5月31日になりますので、株主総会はその前に行われます。

 そこで5月25日に決算を承認し、新年度の役員報酬を決める定時株主総会を実施したとすると、「事前確定届出給与に関する届出書」は6月25日までに税務署に提出しなければなりません。

(2)事前確定届出給与の届出内容

 「事前確定届出給与に関する届出書」には、事前確定届出給与を支給する理由なども記載しますが、何より大変なのは、支給する個人別に、金額と支給日を全て記載しなければならないということです。

 実際に利用する場合には、資金繰りの計画と期日管理に注意が必要です。

3.事前確定届出給与の支払時の注意点

 事前確定届出給与の怖いとことは、届出通りの金額を、届出書上の支払日に実際に支払わなければ、法人税法上、損金としては認められないということです。

 届出書の内容と金額が違ったり、支払日が違ったりした場合には、単なる役員賞与として、損金不算入とされて、法人税が課税されます。

 さらに、役員賞与を受け取った役員個人の方では、給与所得として、所得税・住民税・社会保険料が課されることになり、ダブルパンチになってしまうのです。

 同族会社で、特に株主と社長が同一の場合には、支払期日がルーズになり、ある時払いになりがちですが、事前確定届出給与に関してはそうはいかないという点に注意が必要です。

4.事前確定届出給与の使い方

 事前確定届出給与は、届出書の内容通りに支払いをすると会社の経費にできます。一方で、届出書は提出しても、一切支払いをしなかった場合には、特にペナルティはありません。

 このため、新年度の利益が多額に出る可能性はあるものの、不確実な場合には、事前確定届出給与を届け出しておいて、実際に利益が出たら届出書通りに支払い、見込みが外れて利益が出ない場合には、一切支払わないという形で、ある程度のリスクコントロールが可能になります。

 この使い方をする場合には、以下の点に留意してください。

  • 支払日は、できる限り期末日付近にする
  • 支払日が、平日であることを確認する
  • 支払は、1回だけにする
  • 利益だけでなく、キャッシュフローを考慮して、手許資金で払える範囲内にする
  • 役員個人の所得税・住民税・社会保険料への影響を考慮する

 事前確定届出給与は、一部を払うとか、2回のうち1回だけ払うというようなことをすると、払った部分の金額は、すべて会社の経費から除外されてしまいますので、「全部払う」か「全部払わない」の2択だという点、くれぐれも注意してください。

まとめ

 定期同額給与により役員報酬の期中変更が困難になったため、事前確定届出給与は、役員報酬を使った、数少ないリスクコントロール手段の一つになります。

 届け出から支払いまで、一つでも手続きを誤ると、大きな損害が生じる可能性もありますので、使い方をよく理解して、慎重に使ってみましょう。

コメント